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秋田県林業コンサルタントからのお知らせ

 

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【トピックス 】西日本を襲った7月豪雨災害から学ぶ

(増加する記録的豪雨)
 本年7月に発生した西日本豪雨(気象庁名「平成30年7月豪雨」)では、6月28日~7月8日の総降水量が四国地方で1800ミリ、東海地方で1200ミリ、九州北部地方で900ミリ、近畿地方で600ミリを超えるところがありました。西日本の多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が従来の観測記録を更新する豪雨でした。本県の年平均降雨量が1700ミリ程なので、四国では10日ほどで秋田県の1年分の雨が降ったこととなります。
   気象庁によると、豪雨の要因は、東シナ海付近からの南西風と、太平洋高気圧沿いの南風の2つ多量の水蒸気の流れ込みが西日本付近で合流・持続し、梅雨前線も停滞したためということです。高気圧や前線、台風の影響が重なったためで、こうした気圧配置は、頻度は西日本に多いものの、何処に発生しても不思議ではありません。
 近年の気象白書では、日本で大雨をもたらす雨雲は、南の海上で高気圧の下、蒸発した海水を多量に含む傾向があり、温暖化による気温上昇などにより、将来的に1日に計200ミリ以上の大雨となる日数が増加すると予測しています。
 また、林野庁資料によると、地球温暖化の影響により、降水がより強く煩雑となっており、1時間降水量が80mm以上となる豪雨が増加傾向にあるほか、72時間降水量の歴代記録も相次いで更新しているとのこと。本年7月豪雨前にも、豪雨が多かった平成25年には、全国約1300カ所の気象庁観測所の1割に相当する134地点で、観測史上1位の1時間降水量を記録しています。
 
        派遣先の広島県の林道災害現場

(「想定外の雨」について)

 豪雨により広範囲で土砂崩れが発生した広島県の坂町では、高さ11m、長さ50mの石積みの砂防ダムが決壊しました。堤本体の大部分が崩壊しており、県担当部局は「想定以上の土砂が流入したため」としています。国土交通省によると、砂防ダムの大規模な決壊は異例といいます。
 また、住宅約20棟が全半壊した広島市安芸区では、裏山が崩れ、2月にできたばかりの治山ダムを乗り越えた土砂が住宅地に流れ込みました。広島市では降水量が複数の地点で7月の観測史上1位を記録。治山ダムを管理する県の担当者は「想定外の雨だった」と説明しています。(以上、マスコミ報道抜粋)
 
                広島県の災害現場(後方は治山ダム)

 砂防ダムの決壊や治山ダムの土砂乗り越えが発生し下流域に大きな被害が発生しましたが、砂防と治山、両部局の県担当者とも「想定外の雨量」を原因の一つと語っています。
 構造物の設計上、想定内の雨量とは、統計的に処理された確率雨量か、過去の最大雨量をいいますが、通常は確率雨量をいうと思います。したがって、施設管理者からみた「想定外の雨量」とは、設計上用いた確率雨量を超えた雨が降ったことを表現したものと思います。
  
 災害ダムからの土石乗り越え     住宅への土砂進入(平成25年大館市)
     (平成25年藤里町)
                               
(確率雨量について)
 設計上使用する確率雨量については、国の基準で、それぞれの構造物の機能や保全物に与える影響の大きさなどにより使い分けられています。森林土木関係では治山事業100年、林道事業10年で、土地改良の排水事業は10~30年、ため池は200年、河川砂防事業は100年が原則となっています。あくまで原則で、例えば、一級河川の国直轄は200年以上、他の一級河川や二級河川は10~100年と保全するべき対象によって大きく異なり、また、過去の最大雨量や土砂混入率も考慮することともなっています。
    確率雨量は排水施設の規模に直結し、過大な設計をすれば工事費が掛かりましになる場合が多いし、過小であれば、雨が降るたびに構造物から水があふれ、人的に災害発生の原因を作ることとなります。
 また、日本全体でみると地域によって大きく異なり、100年確率日雨量でみれば、北日本は100~200ミリ、雨量の多い西日本太平洋側は200~400ミリといわれます。現在の気象庁資料によれば、本県の秋田市は163ミリ、東京は289ミリ、雨量の多い高知は445ミリ、7月豪雨で大きな被害を出した広島県呉は218ミリとなっています。今回1800ミリの雨が観測された高知で災害報道が比較的少ないのは、もとより大きな確率雨量で設計された構造物が多かったからかもしれません。

29年7月豪雨災害(秋田市)       30年5月豪雨災害(北秋田市)

(確率雨量の変化と既設構造物)
 ある年に記録的な豪雨が発生したら、それを入れない統計と入れた統計では,統計処理は行うものの、当然、確率雨量が異なってきます。観測期間が短くデータが少ない場合は、再現期間の精度を増すために、できるだけ最近のデータを加えるのが原則となります。本県のデータなどは、40年ほどの観測データを元に100年確率雨量を決めているということなので、今後ともデータを追加し精度を高めていく必要があります。
 もし、確率雨量の数値が今後、大きく変化していくならば、たとえば、過去の確率雨量で設計した構造物は将来は大丈夫でしょうか。治山ダムなどは将来土砂が満砂することを想定し開水路計算も行っており、さほど問題になりませんが、林道の排水施設などは心配です。たとえ、設計上の因子の中に余裕高、安全率を加味していること、確率雨量だけでなく、流出係数、粗度係数など他の因子との掛け合わせで排水量が決まることを考慮したとしても不安が残ります。今後、こうした観点からも、既存構造物の再点検の必要があるかもしれません。

            既設構造物の点検調査

(ハード施設の限界を知る)
 西日本豪雨では、ダム施設が土石などを食い止め被害を免れた地区がある一方で、砂防ダムが決壊し下流域に甚大な被害を出した地区、完成したばかりの治山ダムを越えて土砂が住宅地に流れ込み多数の犠牲者が出た地区などもあります。
 異常豪雨はしばしば地球温暖化が原因とされますが、地球温暖化は長期的な動向であり、将来の雨量に大きく影響していくことが予想されます。過去の雨量の統計が将来の雨量を表わすとは限らず、降水量の長期変化はいよいよ無視できない段階にあると考えます。こうした確率雨量の変動期には、「想定外」と言わざるを得ない、確率雨量値以上の雨量が多々発生すること自体を、「想定する」必要があります。
 災害が多発している今日、治山ダム等構造物の計画的な設置が強く求められますが、厳しい予算状況の中でそれにも限界があります。ハード対策はもちろん必要ですが、こうした想定が難しい雨量増加が予想されるときこそ、施設点検や住民の意識喚起などソフト対策を重視する必要があります。
 特に、用地交渉なども含め、事業実施前の地元説明については十分に行ってきているところですが、市町村職員の方に聞いたところ、事業完了後の施設の地元周知は必ずしも十分とは言い切れないようです。確率雨量や設計諸元の理解はなかなか難しいものの、ハード施設の限界についての理解を得ることだけでも効果があると思います。広島市安芸区では、治山ダム完成時、ハード対策を過信しないことを地元に伝えていたと聞きます。今後は、防災におけるソフト対策強化の観点から、市町村と連携し、施設完成後の地元周知をこれまで以上に強化していく必要があると考えます。

  今後有望なドローンによる施設監視      事業の地元説明会


 

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