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秋田県林業コンサルタントからのお知らせ

 

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【トピックス 】ドローンによる簡易測量を試みました

林業において種々な活用法が模索されているドローンですが、例えば、災害発生時、急峻地形、河川など常水地の測量などに活用できます。北海道胆振東部地震においては、広域で緊急性を要したため土砂崩壊地でのドローン測量が効果を発揮したようです。
 今回試みたのは五城目町の馬場目川の横断測量です。レーザー測量は地盤高を精度よく計測できますが、ドローン写真からも、経費少なく、座標が推計できます。この場合、地盤高でなく草木などの遮蔽物標高が算出されるので、現場状況を観察しながら一部を補正します。新規技術にアナログ要素を取り入れる点が林業技術的ともいえます(図の黒点線が推定横断面)。


  
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【トピックス 】林業構造物の維持管理について~林道橋を事例として~

   公共構造物の長寿命化に向けて、個別施設計画の策定のための基礎調査が急がれております。その中でも、車両通行に供する橋梁、トンネルは事故に直結するため、優先して監視、修繕を行うべき施設です。
 林道橋は、山間奥地に分散的にあること、通行量が少なく外部からの指摘が少ないことなど管理者にとっては現況を把握しづらい施設です。また、土石移動の多い浸食渓流に敷設されること、丸太積載の重車両の通行が多いことなど、劣化や破損が起きやすい施設でもあります。劣化状態を放置すれば事故を招く恐れがあり、事故の予見可能性が高いと判断された場合は管理者責任も問われかねません。今回は林コンが行った林道橋調査の結果を基に、構造物の維持管理について考えてみます。
1.林道橋の点検結果(平成29~30年度)
   林コンでは、平成29~30年度に、県内の林道56路線で、102の橋梁を点検調査しました。主に近接目視ですが、必要に応じて触診や打音等の非破壊検査を行っています。その結果、最も危険度が高く、緊急に何らかの対策が必要な「Ⅳ緊急措置段階」の橋梁は、2か年の調査では幸いにも見当たりませんでしたが、今後支障が生じる可能性のある「Ⅲ早期措置段階」が12基(11.8%)、予防的に措置を行うことが望ましい「Ⅱ予防保全段階」が66基(64.7%)確認されました。ほぼ健全な橋梁は24基(23.5%)でした。
 今後支障が生じる可能性のある「Ⅲ早期措置段階」の12基については、橋台基礎部が長期の流水や流石などで洗堀、摩耗、破壊が発生し上部構造に影響を及ぼす恐れがあるもの、床版や橋台のコンクリート部分に亀裂、剥離が生じ内部鉄筋の腐蝕が進んでいるもの、側壁ブロックが欠損して背後の浸食が進んだもの、防護柵が腐蝕劣化したものなどがあります。これらの橋梁の多くは設置後50年ほど経過したものです。「Ⅱ予防保全段階」の66基については、劣化程度は様々ですが、特に、主桁、横桁、床版などのコンクリートのクラックや表面剥離による鉄筋露出や腐食、滞水やひびわれによる遊離石灰を伴った漏水、支承の腐食などが随所に見られました。


                                     洗堀による橋台破損

 
                                             支承の腐蝕

2.劣化原因1~長年の化学変化~

    林道橋の多くは鉄筋コンクリート構造であるため、主な劣化原因は、他のコンクリート構造物と同様に、塩害、中性化、アリカリシリカ反応(ASR)などのコンクリートの化学変化があげられています。これらは造築当時に鉄筋コンクリートの知見が十分でなかったため発生したものです。
 塩害は、沿岸部の飛来塩分や洗浄不十分な海砂、凍結防止剤などによるもので、コンクリート内部に侵入した塩化物イオンが内部鉄筋を腐食させ性能低下を起こすものです。中性化は、大気中の二酸化炭素がコンクリート中に侵入しPHを低下させることにより、鉄筋表面の不動態皮膜を破壊し、鉄筋腐食を起こすものです。アルカリシリカ反応は、骨材中の特定の鉱物がコンクリートのアルカリ分と反応し膨張やひび割れを起こす現象です。1980年代に、骨材中のシリカ分の含有量制限などの対策が取られたため、その後の構造物では起こりませんが、それ以前の構造物では、ひび割れ、鉄筋の腐食や破断、白色ゲル析出などの現象を引き起こします。
 
                                    表面剥離による鉄筋腐食

3.劣化原因2~設計や保守管理の問題~

  前記のケミカルな劣化原因とともに、林道橋の設計面や保守管理的な原因も考えられています。一般的に、林道橋のみならず、古い橋梁は設計荷重が小さく、床版厚や鉄筋量も少ないといわれております。特に、昭和40年代前半に設置されたRC床版などは配力筋が現行の1/3~1/4程度とされています。床版厚自体の不足や近年の過大な輪荷重なども相まって、橋に縦方向の荷重が繰り返しかかった結果、漏水、ひび割れ、剥離が発生したものと推測されます。曲げひび割れなどが入ったコンクリート面は、上下動の繰り返しにより、さらにコンクリート摩耗が促進され、鉄筋に沿ったひび割れに発展し、鉄筋腐食も加わり、RC構造物に深刻な劣化をもたらします。
 また、集排水施設の土砂づまりや路面の土砂堆積が各所にみられます。雨水との接触環境を長期間保つとRC構造物の耐久性が著しく下がると言われており、土砂除去等のメンテナンスが大切と思われます。
 
                                       橋路面の土砂堆積

4.当面の対策

 現時点では全体の2/3にあたる66基が「Ⅱ予防保全段階」ですが、これらは「Ⅲ早期措置段階」に至る前段階の状態として理解する必要があります。いわば、橋機能に支障が生じる一歩手前の段階であり、それが「雨後の筍」のごとく多くの箇所で見受けられるのです。これらは、人の虫歯と同じで、放置して回復することはなく時間の経過とともに状況が悪化していくことが考えられます。
 対策は早いほうが経費負担が少なくて済みます。劣化・破損が著しい場合は通行止めなどの措置検討とともに、点検調査から一歩進んだ詳細調査を行う必要があります。欠損部のコンクリート充填、基礎部の根継ぎ工など具体的な補修工事の検討や、新設との経費比較なども行い、結果的に、橋梁自体の架け替えが必要となる場合もあります。
 また、コンクリートの劣化度合いによって、塩化物イオン、二酸化炭素、水などの侵入を防ぐため、表面含侵工法、表面被覆工法、ひび割れ注入工法などのチッピング充填処理、塗装、防水処理、また、電気防食や防錆材を活用した鉄筋・支承の防食処理などが必要と思われます。


          通行止めとなった橋梁


 厳しい予算事情の中、早期の対応が結果として補修予算を少なくできるため、林道橋の場合は、第一に林道改良事業の活用が考えられます。また、補修する橋の奥地森林が森林環境譲与税で整備される場合は、路網整備や橋梁補修も譲与税予算の対象にできる可能性があるため、森林整備と道路補修の配分など利用区域の関係者で十分検討することが大切です。
 周知のように施設の経年変状は、橋梁以外の公共構造物にもあり、例えば、年数の経過したダム工や人家裏の土留め工、なだれ防止施設、地すべり防止施設などにも見られます。治山施設の場合は、従来の機能強化対策を充実させた新たな補助事業が創設される予定です。国の制度も新設から維持管理の時代へと変化していることを感じます。
 
        土留め工のアルカリシリカ反応


5.定期点検を確実に行い、劣化予測、トータルコストの算定へ

 林道橋は耐用年数が50~70年とされておりますが、本県では既に耐用年数に到達した橋梁が各所にあり、今後ますます増加します。また、主伐期を迎え輪荷重の大きい車両の通行が増加することも認識しておく必要があります。前述のように、管理が不十分で事故が発生した場合、管理者責任が問われる可能性があります。
 まずは予防措置としての定期点検を確実に行っていく必要があります。国の基準では、通常、定期点検を5年に1回のサイクルで行うこととされております。また、既に建設部サイドでは、施設の劣化予測、優先度判定、ライフサイクルコストの算定など、長期の維持管理に向けた分析に点検資料を活用しています。点検結果は、将来の維持・補修等の基礎材料となるので大切に保存しておく必要があります。

【トピックス 】材積把握の効率化に向けて


■材積(蓄積)の精度を考える

 森林・林業業務で材積や蓄積が必要になる場面は数多くあります。単木の場合は胸高直径と樹高を測定し、幹材積表から読みとるか、丸太の場合は最小二乗法などで計算し、立木蓄積は単材積を積み上げる方法などがあります。この場合、胸高直径は検尺しますが、簡素化を図るため、樹高は標準木を測定し他は推定するのが一般的です。樹種や地域、現場ごとに作成した樹高と胸高直径の回帰式を採用する場合もあります。高い精度を求めるには、全木の樹高測定が必要ですが、必要とされる精度に合わせ、労力の効率化を図っているといえます。なお、近年ではレーザー樹高測定器が普及してきたので単木の樹高検測が楽になりました。
 
かつて、間伐は標準地による推計、主伐は全木実測でしたが、国有林や公社林でも、近年は、林層区分や必要標準地数などの一定の条件のもと、主伐においても標準地による材積推計を行ってきています。精度が高いことに越したことはありませんが、業務の効率化が必要とされる今日、施業内容によって、労力を考慮し、多少精度が落ちても可としているのだと思います。保育的間伐、本数調整伐、低質木の主伐、森林簿蓄積などは簡易な手法でも良く、他方、高齢級の立木処分などは一定の精度が求められるのではないでしょうか。 近年は、高性能林業機械に付属した採材材積認識機器やタブレットを用いた丸太検尺ソフト、運搬車重量測定機などが導入され、川中、川下の材積把握法が効率化してきております。煩雑な原木流通状況の中で、契約上の課題や受け入れ時の確認行為はあるにせよ、効率的に行える場で清算を行えば、立木段階の材積把握は一定の精度で良いのではないかと思います。

    胸高直径の検尺         レーザー計測器での樹高測定


■ドローンによる材積把握
 林業においてドローンの活用法が多数検討されています。①森林資源調査(境界・林況調査、材積調査、収穫・間伐事業の確認調査、面積調査等)、②森林被害、森林病害虫調査(雪害・風害調査、ナラ枯れ調査、マツクイムシ被害調査等)、③災害・森林土木事業調査(災害対応、治山・林道等の調査測量設計、進捗管理・検査、構造物の保守管理・点検業務等)などへの活用が想定され、今後の用途は広いと思われます(冊子「秋田の森づくり」平成30年10~12月号参照)。
 小規模林分が多い民有林において、ドローンによる一定精度の材積把握が可能になれば、現場の労力はかなり軽減されると考えられることから、全国の林業現場で実証実例が増えています。
 ドローンにレーザーを搭載した場合では、実用可能な高精度データが得られる半面、大ロット林分調査に有効(逆に小規模林分には高額)、機材が高額で取扱いに苦慮するなどの課題が出されています。
 一方、ドローン写真を用いた材積把握の場合は、安価であり、民有林などの小規模林にも対応可能で、その手法が確立すれば全国に普及していくと思われます。特に、森林経営計画、森林環境譲与税などの対象となりやすい10~40haの林分材積の算出に効果的と思われますが、反面、精度の高い地盤高データが必要なこと、林層や現場の傾斜度、撮影時の気象などにより誤差が大きいことなども課題として報告されています。


ドローンを活用した治山施設の保守管理       ナラ枯れ探査


■胸高直径の推定
 材積を求めるためには胸高直径値が必要で、空からのドローンでは直接データを得ることができません。このため、胸高直径が樹高や林冠と相関が高いことを利用して、胸高直径を推計することが必要で、国の関係機関、大学、企業などから推計式が提案されています。こうした推計は樹種や地域、さらには、区域、対象現場ごとにきめ細かに実測が可能であれば精度は向上するので、レーザー解析であれ写真解析であれ、そうした実証を積み重ねていく必要があります。
 また、ドローンレーザー解析では表層、地表データの算出が可能で高い精度の樹高データが把握できますが、写真解析では、国土地理院の5~10m
メッシュの地上高データを活用することもあり、場所によって誤差があり材積推定にも影響が大きいといわれます。この場合、その補完も含め、対象地の標準地調査によって樹冠と標高、胸高直径との関係をある程度精査する必要があります。林コンでも、昨年度の県委託により、地上レーザー(「owl」)とドローン写真等を組み合わせ、林分の簡易な材積把握のため胸高直径と樹高の計測を試みています。
 
地上レーザー(アウル)による現地調査


■信州大学加藤教授の講演から
 去る9月12日、秋田県立大学で、ドローンによる材積把握の分野で先端を行く信州大学加藤教授による林業のICT化についての講演が行われました。
 ドローンレーザーによる材積計測はいよいよ実用段階であり、ドローン写真を活用した計測(「普及型」)も将来性は十分あるという回答を得ることが出来ました。一方で、加藤教授からは、長野県では既に精度の高い地盤高データを有していること、長年にわたる樹高や樹幹面積、胸高直径の蓄積データがあるため材積が推計しやすいことなどの回答も頂いています。長野県の現場では、レーザー解析とこれまでの蓄積から、多変量解析により相関係数0.9となるような推計式が策定済みということです。今後、本県でも効率的な材積把握に向け、樹高、樹幹径、胸高直径などの現地調査が進むことが求められます。
  
   ドローンによる材積把握について講演する信州大学加藤教授


■毎木調査箇所でのドローン実証を望む
 近年、低位安定の原木価格を背景に、森林所有者の取り分は原木価格の2~3割と少なくなり、結果的に再造林経費が生まれない状況となっています。県内の伐跡の再造林率(民有林)も2~3割にとどまっております。県有林、公社林、市町村有林などは採算性が合わなくても公益的観点も含め再造林を検討するでしょうが、森林所有者は自分の次の世代に煩雑さを残さないように、自家山林の主伐をきっかけに、再造林どころか土地自体を処分したいと思っている方が多いと聞きます。公的機関で買い上げしてもらいたいと思っている方もいると聞きます。
 林業の循環再生産の流れが滞っている現在、伐採搬出、流通経費の低減化はもとより、材積調査などの効率化も必要です。既に、宮城県、福島県の林業公社では、従来の調査法では労力、経費が多すぎるとして、ドローンによる材積把握を試行していく方向だと聞いています。本県においても、例えば、県有林などの毎木調査箇所で、並行してドローン調査を実証し比較するなど、今後の効率的な材積把握に向けた手法を検討していく必要があります。

【トピックス 】ドローン散歩:大潟村防風林


 大潟村の防風林は、昭和30年代からの国営干拓事業の実施時、オランダの干拓地を参考に、防風効果と景観を考慮して設計されたと云われます。今では、ポプラとクロマツ、樹種転換として植栽してきたケヤキ、ヤチダモ、ハルニレなどの広葉樹により、「広大な田園、何処までも続く防風林」という大潟村独特の景観を保っています。
     
  干拓事業時の計画では、地下水位の低下を待って、始めに、生長の早いポプラを中心に植栽し、ある程度成長した後、ポプラの寿命が短いことを念頭に、次第に、同じ陽樹でも丈夫で風害に強いクロマツに更新していく計画でした。実際、大潟村の東側に位置し南北に伸びる防風林の一部は、上木ポプラと下木クロマツの珍しい二段林を形成しており、当時の計画の一端を伺うことができます。

  年月を経て、予想通り、ポプラの加齢や幾多の台風被害により、ポプラ林が次第に倒伏し疎林化するものの、管理していた大潟村の予算不足や野鼠害等から、クロマツなどへの樹種更新が計画通り進まない状況となっていました。
                 拓地であり地下水位が高いため植栽にあたっては溝切や盛土も行われた


        過去の台風被害などにより疎林化している箇所も目立つ


 こうした事情を背景に、平成の時代にはいり、風害対策や住民の利便性向上を目的として保安林に指定され、治山事業による改植が進むこととなります。場所によって、溝切り、土盛りなどの地下水位の上昇を防ぐための基盤整備を行いつつ、疎林化した地域を中心に広葉樹植栽が進められました。また、マツクイムシ被害がクロマツ防風林内に散見されるようになったため、クロマツから広葉樹への樹種転換も図られました。

 近年、防風林のさらなる疎林化が進んだのか、新たな植栽計画もあると聞きます。防風林は面積、延長とも広大であり、景観維持や観光振興に一役買っている箇所も多くあります。ポプラ、クロマツなどの既存立木を大切にしつつ、疎林化した箇所を中心に、ゆっくりした樹種転換が進むことを願う次第です。

       大潟村のポプラの防風林、独特の景観を保っている

【トピックス 】人手不足が施工現場に及ぼす影響


■労務不足が広がる建設土木業界

 本年度の公共事業予算は、政府の特別枠の措置などにより、建設、農林とも、これまでにない増額予算となりました。予算的にはやや明るい兆しがみえたものの、一方で、建設土木業界ではまったなしの課題もあります。建設土木業界にまん延する人手不足の問題です。秋田労働局が公表している建設土木技術者の有効求人倍率は6.9倍(5月)で分野別では最も高い状況です。有効求人倍率の平均は1.5倍程度であるので突出しているといえます。ハローワークに聞くと、現場の配筋、溶接、型枠などの熟練労務はもとより、一般労務、施工管理、測量・設計でも人材不足が顕著であるといいます。かって、秋田では当たり前の姿であった、農家の長男が自家農業を行いつつ地元の建設会社で現場業務を担う姿が少なくなってきているのです。そもそも、農家の跡継ぎが少なくなったのです。

 現場労務の不足は平成になる前から叫ばれていましたが、30年経過して問題がさらに拡大しました。建設省資料によると、公共工事の労務単価は、建設土木投資の長期の縮減により平成24年頃まで低下してきましたが、東日本大震災の発生などもあり、一気に人手不足感が広がり、その後は7年連続して上昇しています。しかしながら、業界から労務がなくなるのは賃金の問題ばかりではなく、三K、長時間労務、古い価値観など、建設土木業界に内在する基本的問題があるからです。賃金・給与が上がっても、マイナスイメージが若者に定着すれば、加速化する労務減少に歯止めをかけるのは難しいのです。

■渓間工事の現場

 森林土木事業は、ご存じの通り、急傾斜地、山間奥地の現場が多く、土木機械使用が限定され、どうしても人力に頼らざるを得ない工種があります。施工現場を観てみると、設置予定の構造物周囲の土砂移動が予想以上に多く、移動土砂と地山の区別がつかないほど、地山や渓床を削って攪拌した現場を見かけます。人手不足のこの時代、周囲の地山は邪魔者であって、大型機械の搬入や効率的な生コン打設などを考え、目的とする構造物を手際よく施工、完成することにのみ注意が注がれているためだと思われます。ダムを作る目的は不安定土砂を抑止すること、あえて地山を利用した狭い場所を選びダムを造ること、地山を崩せばルーズな不安定土砂が多く発生すること、などの治山工事の趣旨を十分に理解していない施工業者の方も残念ながらいます。できるだけ地山を痛めないで目的の構造物をセットすることが森林土木事業の基本です。しかし、人手不足の中、こうした考えは効率性と相反する面が大きく、現場の施工者には難しい問題でもあります。

 また、足場材や型枠材などの現場内の小運搬は、設計積算上は本工事費の諸経費内といわれますが、山間傾斜地だと、現場内の資材横取り経費や人工手間がばかにならず、要領が悪いと実行費が設計費を上回ってしまうといいます。実は、労務の減もさることながら労務の質も低下したのだそうです。昭和の時代には筋肉労働を担える若者が多かったのですが、現在は年配者が多く、その結果、現場内でどうしても発生する小運搬や雑務を処理することが以前より難しくなったといいます。



      治山現場は地山に挟まれ作業しづらい場所が多い


    地山や立木に配慮しながら完成した治山ダム

■山腹工事の現場

 山腹工事においても、大型のバックホーを中腹に持ち込んで設計外の切り盛りを行っている現場を散見します。かっては、山腹工こそ森林土木の技術特質を示す現場だと言われ、建設土木分野と工法的な棲み分けが行われ、積苗工や階段緑化工など人力施工の工法が多用された時期がありました。しかし、基礎土壌量や肥料分の減少、後年度の管理不足などが原因で植栽木の成長が不十分であることに加え、今日の課題である人力施工が難しくなったという問題が追加され、専門業者のいるコンクリート法枠工が山腹工事で多用されるようになってきました。山腹工事は、急峻な斜面、狭あい地が大半を占め、人力作業が多いので、人手不足の一般土工業者にとってはさらにハードルの高い厳しい現場となるのです。

 
        施工する箇所が多くなった簡易法枠工



       人家裏では強度のある法枠工の施工が多い

  また、山腹工事にも当然熟練工が必要です。例えば、古くから多用されてきたフトン籠は、詰め石を重機でどさっとかご内に落とせばよいのではなくて、手作業で廻りからきちんと積み込み、場所によっては、ほどほどの隙間をつくることも求められます。また、斜面の基礎工として活用される事例が多く、施工場所は、概して軟弱地盤で、かつ、崩れやすい危険な場所です。過去に痛ましい死亡事故も発生しています。フトン籠はそうした危険な場所で、時間をかけた手作業での施工が求められるのです。

 そもそも、フトン籠類は、現場練りコンクリートの時代に、コンクリート資材の運搬が難しい場所において、下部にはコンクリート造の構造物を設け、上部には簡易かつ現場で材料を採取できる工作物を採用することが多かった時代に多用された工法と聞きます。工種工法が資材運搬の難易度に左右された昭和前期の時代です。
 現在は、小型キャタピラ運搬車の時代で、なおかつ、熟練労務が不足する時代です。危険回避も含め現場施工の面からは、つり上げ強度のある二次製品鋼製籠に、詰め込み時間の短縮可能な小さめの栗石を用いる工種が好まれています。


    フトン籠基礎工          フトン籠の詰石作業

■人手不足と安全確保の観点からの省力化

 現場からは、「型枠大工と配筋工の手当てがつかない」、「平ブロックの積み手がいない」、「フトン籠が施工できない」などの声が聞こえ、熟練工に頼っていた工種で人探しに大変のようです。熟練工を自社雇用せずに外部の専門部隊に頼ってきた施工業者も多いといいます。
 また、一部地区では平地より運搬、打設が手間取る山間地だと生コン単価自体が高くなる傾向があるという話も聞きます。地理条件の不利さを労務によって補ってきた側面もあります。こうした労務不足を背景に、森林土木工事は施工業者にとって今まで以上に難しい仕事となり、結果的に、落札不調が発生することもあるようです。

 国では、森林土木工事の省力化のため、あらかじめ工場等で一部製作し現地で適用するプレキャスト化、大型ブロックやL型ブロック等ブロック製品の適用拡大、軽量プラスチック製品の活用、小運搬施工を含んだ山腹工法の開発、ラスや鋼製枠を使用した型枠の施工、などを現地実証中であると伺っています。
 これまでは、主に経費削減に向け省力化を進めるよう言われてきました。もちろん経費のかからない工法選択は必須ですが、一方で、人手不足や安全確保の観点から省力化工法を採用していくべき時代となってきたといえます。フトン籠の例に見るように、自然条件や現地条件に加え、社会条件の変化によって、採用されるべき工種・工法は変化していくものだと思います。当社団においても、発注者の指導を得ながら、経費とともに施工事情も考慮した工種選定を心がけていきたいと思います。



     工期短縮と省力化が模索される大型ブロックの適用

【トピックス 】ドローン散歩:引き続きナラ枯れには注意


    本年は大幅に減少したと報道のあったナラ枯れ被害ですが、媒介するカシノナガキクイムシは簡単に消滅しないようです。しばしば大量発生と衰退を繰り返すとのこと。老齢木の存在や気候の状況など条件さえ整えば、ナラ類はこの昆虫にマスアタックを受け、時に枯死します。特に、拡大が懸念される県北部は引き続きの注意が必要です。


           能代市鶴形地区
 
          三種町長信田地区


【トピックス 】敦煌市の防風林造成(中国視察2)


 中国蘭州市に続いて敦煌市伊塘湖造林地について紹介します。
    敦煌市は蘭州市よりさらに500kmほど北西部に位置し、シルクロードの拠点として有名な地域です。年間降水量は40mm程度で広大なゴビ砂漠の南部に位置しています。雨量が極めて少ないうえ、内陸性気候で冬期には氷点下数十度にもなるなど、寒暖の差が大きく、植物の生育には極めて厳しい環境です。
 前回の急峻な皐蘭山造林地と異なり、こちらでは、砂漠地近くの平地13 haほどに、ポプラの一種の胡楊が植栽されていました。近くに空港や関連施設があり、防風と防砂の林帯造成を目指しているようです。

 

                    砂漠地付近の植栽地

   
 県林業育成協会が支援している試験地     13haほどの胡楊の植栽地
   

 植樹法は黄土に羊フンのたい肥を混ぜ植栽するとともに、根際の土壌だけに水分が染み込むように、植栽木の周りに高さ0.1~0.2m、1.5×1.5mほどの方形の土壁をつくっています。前の視察地の「魚鱗抗」と目的が似ています。当地でも、地下水を利用した散水装置が設置され、半月に一度ほどの割合で散水が行われています。降水量は少なく厳しい生育条件であるものの、適切な管理のもと、植栽後6年経過し、胡楊の生育は順調のようです。



        貴重な地下水を根際に浸透させるため土壁をつくる

 植栽している胡楊は、中央、西アジア、北アフリカなどに広く分布する樹種で、大きいものは高さ20m、直径1mほどにもなります。長い間の伐採や開発の結果、在来林分は減少し現在は禁伐となっているとのことです。陽光を好み、熱、乾燥、塩分、強風に強く、年数を経て太くなった樹幹には多量の水分が含まれていて、ポプラやニセアカシアなどの外来導入樹種と異なり、乾燥地において、年齢を経ても活力、成長が持続することが知られているとのことです。「胡楊は生きて千年枯れず、枯れて千年倒れず、倒れて千年腐らず」というように、3000年の長生きの木であるとの説明を現地で受けました。植栽木は、外来種から郷土種まで、いろいろ試験している状況であるように思えました。

 
         敦煌市莫高窟近くの胡楊の成林木

    植物にとって降水量は最も大切な生育条件です。通常、年間降水量が500mm以下だと自然状態では森林が成立しにくいとされ、ステップ、サバンナなどの草原地帯となります。100mm以下だと、サボテンのような果肉植物の一部が生育可能であって、砂漠化すると言われます。視察地の蘭州市は250 mm、敦煌市は40mmの乾燥地域でした。植え付け穴への雨水導入のために、階段や深穴、土壁など周辺土壌の整形を行い植林し、さらに、植樹後に、地下水をくみ上げ人工的に散水しています。経費と労力は相当なものです。

 我が国は平均すれば1600mm程度なので、降水量だけみれば森林の生育に問題はなく恵まれた条件下にあります。むしろ、降水量が多いゆえの排水や地下水対策が必要となる場合が多々あります。これまで、崩壊地や地滑り地の植栽が各所で行なわれてきましたが、保水・排水に優れた土壌状態を作るという意味では、いまだに検討の余地があるように思えます。

 今回の緑化視察地では、乾燥地帯と多雨地帯の違いはあるものの、植栽方法は、土壌改変を伴う治山造林の範疇に入るような手法で行っていました。こうした植樹方法がさらに改良・定着し、かっては森林が多かったといわれる黄土高原で、少しづつ緑の回復が進むことを願う次第です。

【トピックス 】蘭州市の階段緑化(中国視察1)

秋田県は中国甘粛省と昭和57年に友好提携を結び、各種の技術交流を行ってきました。植樹事業もその一環で、甘粛省蘭州市皐蘭山造林地は平成16年以降、本県の林業育成協会が中心となり植樹指導をしています。本年10月、本県林業団体の代表が中心となった甘粛省緑化事業視察が行われ、当社団からも小川理事長が参加しました。

 植栽地一帯の土質は黄土です。黄土は中国西北部の黄河上流域から発生する黄砂が長年にわたり降り積もり圧密固結したもので、場所によっては深さ100メートル以上も堆積しています。シルト質で、通常は固いが、水には簡単に浸食され、一旦崩れると粉状になって飛び散りやすいとされています。本県の鹿角、北秋田地区に分布するシラス土壌に性質が似ています。また、蘭州市の降水量は年間250ミリほどで本県の1/7に過ぎませんが、夏の雨季には黄土の浸食を引き起こす強い雨も降るようです。

      蘭州市周辺の急傾斜地の黄土

 こうした自然条件を反映し、急傾斜地では崩落に注意しながら階段を造成した上で、さらに、階段上の植栽地に深い穴を掘って、貴重な雨水が逃げないようにして、植栽しています。植栽穴は直径1メートル、深さ0.8メートルほどの大きなもので、植栽後の埋め戻しは、流れる雨水を逃さず地中にしみこませるように、地表から0.2メートルほど下で止めます。こうした植樹法は、植栽木が土中に沈み込んだようになり、空から見ると魚のうろこのように見えることから「魚鱗抗造林」というそうです。

  
           階段状の造林地(1)

 また、主な植栽木はコノテガシワ、ニセアカシア、ポプラ、アブラマツなど乾燥に強い樹種、しかも、当地域では成長が早期に実感できるようにと、大苗が植えられていました。
 経費をかけて人力で階段をつくり植栽を行うあたりは、治山事業の階段植栽と同じ手法ですが、我々が、雨量や地下水位による根腐れが起きないように、盛り土植栽や周辺の溝きりなどを行うのに対し、降水量が少ない当地では、貴重な雨水を根系の範囲外に逃さないように深穴植栽を行うところが、我々が通常行う植栽と正反対でした。


            階段状の造林地(2)
 
 植樹後、地下100メートル以上は掘って供給されるという散水装置から、貴重な地下水が深穴にたっぷり注がれていました。今後は森林化に加え、寒暖の差が大きく糖度の高い果樹ができることから、場所によっては、森林にナシ、モモ、ブドウなどの果樹も混ぜて植栽していきたいとのことです。大昔は森林が多かったと言われる中国の黄土高原ですが、一度森林が破壊されると、その復旧には大変な労力と経費がかかるようです。長期間かかると思いますが、少しづつ緑が回復することを願う次第です。
 
        植栽後、たっぷりと深穴に水やりを行う



【トピックス 】ドローン散歩:藤里町早飛沢地区の治山事業

早飛沢地区は、平成25年8月9日の豪雨により、秋田・青森を連絡する重要路線である県道西目屋二井線に大量の土砂が流出し被災したため、同年、災害関連緊急治山事業などの採択を受け復旧整備を進めてきました。
 写真は、早飛沢Ⅰ地区の実施状況です。新たに、ダム工3基設置するとともに、既設ダム工を活用しながら流路工と山腹工で、発生した土石を安定化させています。過去の豪雨により度々土砂が流出してきた県道西目屋二井線沿線は、関係者の尽力により、この早飛沢地区も含めて、対策工事が終了に近づきつつあります。
 なお、本年8月5日、当地区で、市町村、森林組合、企業などの職員30名が参加した治山林道研修会が開かれ、当社団伊藤技師が講師となりドローンの現地講習を行いました。

   25年災害発生当時

 
  治山事業終了時(流路工、山腹工などを実施させ斜面の安定化を図った)



【トピックス 】広島災害地の土質について


   災害復旧で派遣された広島県内の土砂崩れは、初期報道では、5000か所発生したと言われ、その土質は、多くの箇所が「まさ土」と呼ばれる花崗岩由来の細かい土砂からなる、たいへん崩れやすいものでした。こうした土質は、広島県の太平洋側一帯に分布しており、災害が発生しやすく農業生産力も低いとされ、国から「特殊土壌地帯」に指定されています。
 また、まさ土に混じり、直径1メートルを超えるような巨石が住宅地まで到達した場所もあります。これは、花崗岩の硬い部分が風化せずに残った「コアストーン」と呼ばれる岩石で、被害を拡大させた一因といわれています。

 まさ土は花崗岩と同様、長石、石英、雲母などの成分を含み、よく見ると、きらきら光る細かい石英などが見えます。また、水はけ、保水力が良く、余分な肥料分がないので園芸用、土木用としても広く知られています。
 
 まさ土は我が国に広く分布しており、本県では、湯沢市三関、小野、横堀地区などに分布していることが知られています。また、まさ土のような崩落が起きやすい特殊土壌は、本県では、鹿角地域のシラス土壌があります。この地域のシラスは大昔の十和田湖噴火の火砕流堆積物です。

 
            風化が進んだ花崗岩

   
  まさ土による林道盛り土面      コアストーンの一部と思われる岩石



【トピックス 】西日本を襲った7月豪雨災害から学ぶ

(増加する記録的豪雨)
 本年7月に発生した西日本豪雨(気象庁名「平成30年7月豪雨」)では、6月28日~7月8日の総降水量が四国地方で1800ミリ、東海地方で1200ミリ、九州北部地方で900ミリ、近畿地方で600ミリを超えるところがありました。西日本の多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が従来の観測記録を更新する豪雨でした。本県の年平均降雨量が1700ミリ程なので、四国では10日ほどで秋田県の1年分の雨が降ったこととなります。
   気象庁によると、豪雨の要因は、東シナ海付近からの南西風と、太平洋高気圧沿いの南風の2つ多量の水蒸気の流れ込みが西日本付近で合流・持続し、梅雨前線も停滞したためということです。高気圧や前線、台風の影響が重なったためで、こうした気圧配置は、頻度は西日本に多いものの、何処に発生しても不思議ではありません。
 近年の気象白書では、日本で大雨をもたらす雨雲は、南の海上で高気圧の下、蒸発した海水を多量に含む傾向があり、温暖化による気温上昇などにより、将来的に1日に計200ミリ以上の大雨となる日数が増加すると予測しています。
 また、林野庁資料によると、地球温暖化の影響により、降水がより強く煩雑となっており、1時間降水量が80mm以上となる豪雨が増加傾向にあるほか、72時間降水量の歴代記録も相次いで更新しているとのこと。本年7月豪雨前にも、豪雨が多かった平成25年には、全国約1300カ所の気象庁観測所の1割に相当する134地点で、観測史上1位の1時間降水量を記録しています。
 
        派遣先の広島県の林道災害現場

(「想定外の雨」について)

 豪雨により広範囲で土砂崩れが発生した広島県の坂町では、高さ11m、長さ50mの石積みの砂防ダムが決壊しました。堤本体の大部分が崩壊しており、県担当部局は「想定以上の土砂が流入したため」としています。国土交通省によると、砂防ダムの大規模な決壊は異例といいます。
 また、住宅約20棟が全半壊した広島市安芸区では、裏山が崩れ、2月にできたばかりの治山ダムを乗り越えた土砂が住宅地に流れ込みました。広島市では降水量が複数の地点で7月の観測史上1位を記録。治山ダムを管理する県の担当者は「想定外の雨だった」と説明しています。(以上、マスコミ報道抜粋)
 
                広島県の災害現場(後方は治山ダム)

 砂防ダムの決壊や治山ダムの土砂乗り越えが発生し下流域に大きな被害が発生しましたが、砂防と治山、両部局の県担当者とも「想定外の雨量」を原因の一つと語っています。
 構造物の設計上、想定内の雨量とは、統計的に処理された確率雨量か、過去の最大雨量をいいますが、通常は確率雨量をいうと思います。したがって、施設管理者からみた「想定外の雨量」とは、設計上用いた確率雨量を超えた雨が降ったことを表現したものと思います。
  
 災害ダムからの土石乗り越え     住宅への土砂進入(平成25年大館市)
     (平成25年藤里町)
                               
(確率雨量について)
 設計上使用する確率雨量については、国の基準で、それぞれの構造物の機能や保全物に与える影響の大きさなどにより使い分けられています。森林土木関係では治山事業100年、林道事業10年で、土地改良の排水事業は10~30年、ため池は200年、河川砂防事業は100年が原則となっています。あくまで原則で、例えば、一級河川の国直轄は200年以上、他の一級河川や二級河川は10~100年と保全するべき対象によって大きく異なり、また、過去の最大雨量や土砂混入率も考慮することともなっています。
    確率雨量は排水施設の規模に直結し、過大な設計をすれば工事費が掛かりましになる場合が多いし、過小であれば、雨が降るたびに構造物から水があふれ、人的に災害発生の原因を作ることとなります。
 また、日本全体でみると地域によって大きく異なり、100年確率日雨量でみれば、北日本は100~200ミリ、雨量の多い西日本太平洋側は200~400ミリといわれます。現在の気象庁資料によれば、本県の秋田市は163ミリ、東京は289ミリ、雨量の多い高知は445ミリ、7月豪雨で大きな被害を出した広島県呉は218ミリとなっています。今回1800ミリの雨が観測された高知で災害報道が比較的少ないのは、もとより大きな確率雨量で設計された構造物が多かったからかもしれません。

29年7月豪雨災害(秋田市)       30年5月豪雨災害(北秋田市)

(確率雨量の変化と既設構造物)
 ある年に記録的な豪雨が発生したら、それを入れない統計と入れた統計では,統計処理は行うものの、当然、確率雨量が異なってきます。観測期間が短くデータが少ない場合は、再現期間の精度を増すために、できるだけ最近のデータを加えるのが原則となります。本県のデータなどは、40年ほどの観測データを元に100年確率雨量を決めているということなので、今後ともデータを追加し精度を高めていく必要があります。
 もし、確率雨量の数値が今後、大きく変化していくならば、たとえば、過去の確率雨量で設計した構造物は将来は大丈夫でしょうか。治山ダムなどは将来土砂が満砂することを想定し開水路計算も行っており、さほど問題になりませんが、林道の排水施設などは心配です。たとえ、設計上の因子の中に余裕高、安全率を加味していること、確率雨量だけでなく、流出係数、粗度係数など他の因子との掛け合わせで排水量が決まることを考慮したとしても不安が残ります。今後、こうした観点からも、既存構造物の再点検の必要があるかもしれません。

            既設構造物の点検調査

(ハード施設の限界を知る)
 西日本豪雨では、ダム施設が土石などを食い止め被害を免れた地区がある一方で、砂防ダムが決壊し下流域に甚大な被害を出した地区、完成したばかりの治山ダムを越えて土砂が住宅地に流れ込み多数の犠牲者が出た地区などもあります。
 異常豪雨はしばしば地球温暖化が原因とされますが、地球温暖化は長期的な動向であり、将来の雨量に大きく影響していくことが予想されます。過去の雨量の統計が将来の雨量を表わすとは限らず、降水量の長期変化はいよいよ無視できない段階にあると考えます。こうした確率雨量の変動期には、「想定外」と言わざるを得ない、確率雨量値以上の雨量が多々発生すること自体を、「想定する」必要があります。
 災害が多発している今日、治山ダム等構造物の計画的な設置が強く求められますが、厳しい予算状況の中でそれにも限界があります。ハード対策はもちろん必要ですが、こうした想定が難しい雨量増加が予想されるときこそ、施設点検や住民の意識喚起などソフト対策を重視する必要があります。
 特に、用地交渉なども含め、事業実施前の地元説明については十分に行ってきているところですが、市町村職員の方に聞いたところ、事業完了後の施設の地元周知は必ずしも十分とは言い切れないようです。確率雨量や設計諸元の理解はなかなか難しいものの、ハード施設の限界についての理解を得ることだけでも効果があると思います。広島市安芸区では、治山ダム完成時、ハード対策を過信しないことを地元に伝えていたと聞きます。今後は、防災におけるソフト対策強化の観点から、市町村と連携し、施設完成後の地元周知をこれまで以上に強化していく必要があると考えます。

  今後有望なドローンによる施設監視      事業の地元説明会


 

【トピックス 】ドローン散歩:空から見た針広混交林

ナラ、ホウノキ、サクラ類など多様な広葉樹とスギの交じり合った針広混交林。中間標高の森林各所に、とんがりと丸形の隣接した林冠が特徴的です。結果的にスギの不成績造林地であったり、植栽後の手入れ不足であった箇所に、よく見受けられるようです。スギ林の育成に不可欠な下刈りや除伐は、広葉樹を除去する作業でもあります。保育作業をしっかり行ってきた林は、広葉樹が少なく、混交林誘導にはむしろマイナスになる場合もあります。
 こうした針広混交林は、技術的に育成管理が難しく、また、丸太価格の上昇が見込めず労務不足が顕在化してきた今の森林経営には、若干荷が重いかもしれません。
   一方で、スギ一斉林に比べ水源涵養や土砂災害防止機能に優れ、生物多様性の保全に役立つといわれており、集中豪雨が多発し、森林の環境保全的な側面が重視される今日において、治山事業や森づくり税事業で計画的に造成されています。

  











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