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秋田県林業コンサルタントからのお知らせ

 

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【トピックス 】人手不足が施工現場に及ぼす影響


■労務不足が広がる建設土木業界

 本年度の公共事業予算は、政府の特別枠の措置などにより、建設、農林とも、これまでにない増額予算となりました。予算的にはやや明るい兆しがみえたものの、一方で、建設土木業界ではまったなしの課題もあります。建設土木業界にまん延する人手不足の問題です。秋田労働局が公表している建設土木技術者の有効求人倍率は6.9倍(5月)で分野別では最も高い状況です。有効求人倍率の平均は1.5倍程度であるので突出しているといえます。ハローワークに聞くと、現場の配筋、溶接、型枠などの熟練労務はもとより、一般労務、施工管理、測量・設計でも人材不足が顕著であるといいます。かって、秋田では当たり前の姿であった、農家の長男が自家農業を行いつつ地元の建設会社で現場業務を担う姿が少なくなってきているのです。そもそも、農家の跡継ぎが少なくなったのです。

 現場労務の不足は平成になる前から叫ばれていましたが、30年経過して問題がさらに拡大しました。建設省資料によると、公共工事の労務単価は、建設土木投資の長期の縮減により平成24年頃まで低下してきましたが、東日本大震災の発生などもあり、一気に人手不足感が広がり、その後は7年連続して上昇しています。しかしながら、業界から労務がなくなるのは賃金の問題ばかりではなく、三K、長時間労務、古い価値観など、建設土木業界に内在する基本的問題があるからです。賃金・給与が上がっても、マイナスイメージが若者に定着すれば、加速化する労務減少に歯止めをかけるのは難しいのです。

■渓間工事の現場

 森林土木事業は、ご存じの通り、急傾斜地、山間奥地の現場が多く、土木機械使用が限定され、どうしても人力に頼らざるを得ない工種があります。施工現場を観てみると、設置予定の構造物周囲の土砂移動が予想以上に多く、移動土砂と地山の区別がつかないほど、地山や渓床を削って攪拌した現場を見かけます。人手不足のこの時代、周囲の地山は邪魔者であって、大型機械の搬入や効率的な生コン打設などを考え、目的とする構造物を手際よく施工、完成することにのみ注意が注がれているためだと思われます。ダムを作る目的は不安定土砂を抑止すること、あえて地山を利用した狭い場所を選びダムを造ること、地山を崩せばルーズな不安定土砂が多く発生すること、などの治山工事の趣旨を十分に理解していない施工業者の方も残念ながらいます。できるだけ地山を痛めないで目的の構造物をセットすることが森林土木事業の基本です。しかし、人手不足の中、こうした考えは効率性と相反する面が大きく、現場の施工者には難しい問題でもあります。

 また、足場材や型枠材などの現場内の小運搬は、設計積算上は本工事費の諸経費内といわれますが、山間傾斜地だと、現場内の資材横取り経費や人工手間がばかにならず、要領が悪いと実行費が設計費を上回ってしまうといいます。実は、労務の減もさることながら労務の質も低下したのだそうです。昭和の時代には筋肉労働を担える若者が多かったのですが、現在は年配者が多く、その結果、現場内でどうしても発生する小運搬や雑務を処理することが以前より難しくなったといいます。



      治山現場は地山に挟まれ作業しづらい場所が多い


    地山や立木に配慮しながら完成した治山ダム

■山腹工事の現場

 山腹工事においても、大型のバックホーを中腹に持ち込んで設計外の切り盛りを行っている現場を散見します。かっては、山腹工こそ森林土木の技術特質を示す現場だと言われ、建設土木分野と工法的な棲み分けが行われ、積苗工や階段緑化工など人力施工の工法が多用された時期がありました。しかし、基礎土壌量や肥料分の減少、後年度の管理不足などが原因で植栽木の成長が不十分であることに加え、今日の課題である人力施工が難しくなったという問題が追加され、専門業者のいるコンクリート法枠工が山腹工事で多用されるようになってきました。山腹工事は、急峻な斜面、狭あい地が大半を占め、人力作業が多いので、人手不足の一般土工業者にとってはさらにハードルの高い厳しい現場となるのです。

 
        施工する箇所が多くなった簡易法枠工



       人家裏では強度のある法枠工の施工が多い

  また、山腹工事にも当然熟練工が必要です。例えば、古くから多用されてきたフトン籠は、詰め石を重機でどさっとかご内に落とせばよいのではなくて、手作業で廻りからきちんと積み込み、場所によっては、ほどほどの隙間をつくることも求められます。また、斜面の基礎工として活用される事例が多く、施工場所は、概して軟弱地盤で、かつ、崩れやすい危険な場所です。過去に痛ましい死亡事故も発生しています。フトン籠はそうした危険な場所で、時間をかけた手作業での施工が求められるのです。

 そもそも、フトン籠類は、現場練りコンクリートの時代に、コンクリート資材の運搬が難しい場所において、下部にはコンクリート造の構造物を設け、上部には簡易かつ現場で材料を採取できる工作物を採用することが多かった時代に多用された工法と聞きます。工種工法が資材運搬の難易度に左右された昭和前期の時代です。
 現在は、小型キャタピラ運搬車の時代で、なおかつ、熟練労務が不足する時代です。危険回避も含め現場施工の面からは、つり上げ強度のある二次製品鋼製籠に、詰め込み時間の短縮可能な小さめの栗石を用いる工種が好まれています。


    フトン籠基礎工          フトン籠の詰石作業

■人手不足と安全確保の観点からの省力化

 現場からは、「型枠大工と配筋工の手当てがつかない」、「平ブロックの積み手がいない」、「フトン籠が施工できない」などの声が聞こえ、熟練工に頼っていた工種で人探しに大変のようです。熟練工を自社雇用せずに外部の専門部隊に頼ってきた施工業者も多いといいます。
 また、一部地区では平地より運搬、打設が手間取る山間地だと生コン単価自体が高くなる傾向があるという話も聞きます。地理条件の不利さを労務によって補ってきた側面もあります。こうした労務不足を背景に、森林土木工事は施工業者にとって今まで以上に難しい仕事となり、結果的に、落札不調が発生することもあるようです。

 国では、森林土木工事の省力化のため、あらかじめ工場等で一部製作し現地で適用するプレキャスト化、大型ブロックやL型ブロック等ブロック製品の適用拡大、軽量プラスチック製品の活用、小運搬施工を含んだ山腹工法の開発、ラスや鋼製枠を使用した型枠の施工、などを現地実証中であると伺っています。
 これまでは、主に経費削減に向け省力化を進めるよう言われてきました。もちろん経費のかからない工法選択は必須ですが、一方で、人手不足や安全確保の観点から省力化工法を採用していくべき時代となってきたといえます。フトン籠の例に見るように、自然条件や現地条件に加え、社会条件の変化によって、採用されるべき工種・工法は変化していくものだと思います。当社団においても、発注者の指導を得ながら、経費とともに施工事情も考慮した工種選定を心がけていきたいと思います。



     工期短縮と省力化が模索される大型ブロックの適用

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